11月29日 『米中関係のなかの釧路の立ち位置と今後の発展方向性について』講演録 講師 進藤栄一

進藤栄一氏の講演では、釧路にハブ港が必要な理由や、世界の経済的変遷についての考察が行われた。


~パクスアシアーナの夜明け 北のシンガポール釧路~


 釧路は、アジア経済圏の中で重要な役割を果たすことが期待されている。釧路は欧米 アジア各国との貿易において重要な拠点となる米国にもっとも近いアジアの玄関に位置する他、港湾後背地に広大な平地がある。さらに情報通信革命によって一次産業の六次産業化を通じて地域経済の活性化がすすんでいる。

 いま「パクスアメリカーナ」の時代が終焉を迎えつつある。その最大原因は世界展開している米軍および軍需産業の維持のために米国政府の財政支出に占める軍事予算が極めて高い割合となっており、民生品の開発、教育、医療などに充分な予算が投入されていないからである。
 この結果 貧困格差が異常に至りトランプ大統領登場は米国の社会不安要因の高まりが背景にある。
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世紀は「パクスブリタニカ」、20世紀は「パクスアメリカーナ」そして米国経済の停滞と国内不安要因の増大に伴う内需停滞によって、中国、インド、インドネシアの人口ボーナスとアジア各国の高い経済成長によってアジアが世界経済の中心となる「パクスアシアーナ」の時代が到来したのだ。
 このことからアジア各国が連携し、経済的に発展することが重要である。そのような実態から北極海航路、北米航路の一大海上要衝となる釧路がアジアの一大物流拠点となる。
産業革命の歴史を振り返ると地政学は常に国家の領土拡張、そのための軍事的膨張と経済成長、その後の軍事予算の財政に占める割合の拡大と国内経済の停滞に伴う国家の衰退と、各国共通した国家の栄枯盛衰の流れがある。
 第一次トランプ政権以降、とくにオバマやバイデンの政策が貧困層を増加させる一因となっている。
 日本は経済政策の失敗に伴う経済没落と国民が貧困化する一方、アジア各国は高い経済成長を続け、釧路がその中で果たすべき役割を再認識することが重要である。

 釧路港のアジアの未来を見据えた戦略的なアプローチが、地域の発展のみならず日本再興に繋がる。

 地政学の思考は既に時代遅れである。理由は国家の領土拡張による経済成長は情報インフラからもたらされる経済的恩恵から見て過小であることから、領土の拡張はそこから得られる国際協調平和を喪失したマイナスと相殺すると割に合わないからである。
 さらに孫氏の兵法に「最も高等な戦争の方法は「敵の陰謀を陰謀のうちに破ること」、その次に「敵と同盟国との外交を破る分断」、さらに「敵軍を破ること」。 そして、最も悪いことは「敵の城を攻めること」で、それはやむを得ず行うものである」とある。
このようなアジア共通の思想背景を考慮するならば、「一帯一路」、「台湾問題」もそこに中国の国家戦略がみえてくる。
 バイデン大統領の息子がウクライナ企業の取締役として月8,000ドルを得ていた1997年から、米国が東欧に民主主義を広げようとした試みが、結果的にウクライナロシア戦争の最大の要因である。地政学の終焉や、米国権益拡大による軍事予算増大に伴う米国国民の貧困化が米国経済衰退の最大要因であり、「パクスアメリカーナ」の終焉に至ったことを理解しなければならない。

 欧州面積の狭さが原因で国境や民族の混じり合い、共生の必要性がある一方で、日本海でロシア、中国、北朝鮮と隔てられた日本の軍事的価値は不変の事実である。ロシアの北方領土に関する立場は憲法にロシア領であると明記し領土問題に対する立場が明確化しており返還可能性はない。日本の領土問題に対する歴史的背景と領土交渉及び目標は世界の実態と日本の視点とに大きな隔たりがある。
 日本の情報力や研究開発力の世界からの隔たり、つまり国際戦略が劣化した結果 安倍首相によるロシアとの領土交渉という意味のない外交交渉を続けたに過ぎない。

 情報通信革命の進展した今日、国家は通商を基軸にした発展が求められている。

 世界経済の中心が西洋から東洋に移動し、南や東の国々が発展する一方で北や西の国が衰退している大きな流れのなかにある。

 中国と欧州の経済関係で「中欧班列」や「海のシルクロード」といった新たな経済ルートが世界経済に大きな影響力を及ぼしている。
 さらに地球温暖化による北極海航路の本格的運用が始まり釧路に大型港湾を造ることが日本の国益に大きなプラス効果をもたらす国際状況に至った。一帯一路構想に参画し、釧路は「北のシンガポール」を目指すべき時が来ている。
 そのためには、釧路港を、単なるバルク港から、国際コンテナ港へと格上げする国家戦略構想を実現すべき時が来ている。地球温暖化の波の先端を捕まえて、釧路港を、北太平洋の日本列島の港湾拠点にすることが強く望まれる所以だ。
 
 しかし小泉構造改革で全国総合開発計画が廃止された状況である為、釧路が東京に働きかけることが日本経済再興につながるのだ。

 日本が没落した背景は、米国による日米構造協議などによる日本の半導体産業潰し、BIS(国際決済銀行)協定の改悪による(北海道拓殖銀行など)「日本の主要都市銀行」国際展開潰しなどが語られるが、それ以外に実は日本政府による誤った経済政策に伴うものが少なくない。いわば「日本の自死」である。
 例えば雇用の流動化に伴う派遣労働者の定着に伴う貧困化。消費税導入と3度の消費税増税に伴う国民消費の縮小と国内設備投資の減少に伴う内需の縮小。
加えて大店法改正導入による、地方各都市の「中心市街空洞化」だ。こうした、いわば米国流新自由主義政策は直ちにやめるべきある。
 その結果、中産階級の没落、国民の総貧困化、少子化の進展となって「ニッポン衰退」が進展し続けている。加えて、国家の文教科学研究にかける予算が大幅に縮小し、日本の科学技術開発にかんする国際競争力もボロボロになっている。「人なくして地方の繁栄なく、地方の繁栄なくして国の発展はない」。

 いま、日本再興の時が求められている。その先導役を、「北のシンガポール」釧路の発展が担うことを期待する所以である。釧路港のコンテナ戦略港への展開が、一日も早く求められる時だ。


講師 進藤 榮一(しんどう えいいち)

略歴

193986日、北海道帯広市に生まれる。帯広柏葉高等学校を経て、1963年京都大学法学部卒業。1965年同法学研究科修士課程、1968年同博士課程修了、1976年法学博士。現在、筑波大学大学院名誉教授、早稲田大学アジア研究機構客員教授、国際アジア共同体学会代表、東アジア共同体評議会副議長。専門はアメリカ外交、国際公共政策。

 

1969年 ジョンズ・ホプキンズ大学高等国際問題研究大学院(SAIS)留学(-71年)

1970年 プリンストン大学歴史学部客員研究員(-71年)

1971年 鹿児島大学法文学部助教授(-74年)

1975年 筑波大学社会科学系助教授(-90年)

1976年 プリンストン大学フォード財団フェロー(-77年)

1977年 ハーバード大学アメリカ研究所フェロー(-78年)

1985年 日本平和学会副会長(-87年)

1987年 ハーバード大学アメリカ研究所フェロー

1988年 オースティン大学客員教授

1990年 筑波大学社会科学系教授(-03年)

1991年 メキシコ大学院大学国際交流基金招請教授

1993年 サイモン・フレイザー大学客員教授

1996年 ウッドロー・ウィルソン国際学術センターシニア・フェロー、日本公共政策学会副会長(-00年)、21世紀政策構想フォーラム理事長

1998年 筑波大学社会科学系長(-99年)

1999年 コペンハーゲン大学客員研究員

2000年 ウィルソン国際学術センター上級フェロー

2001年 オックスフォード大学研究員(安倍フェロー)

2002年 香港中文大学客員教授、延世大学訪問研究員、アメリカ平和研究所上級研究員、

2003年 江戸川大学社会学部教授(-08年)、

2007年 東アジア共同体評議会副議長

2008年 早稻田大学アジア研究機構客員教授、日本新技術促進機構会長

2008年 一般財団法人アジア平和貢献センター評議員

2010年 筑波大学寄付講座「人間安全保障」プログラム顧問(~13年)

2011年 アジア連合大学院設立準備委員会委員長

2012年 筑波大学ワンアジア財団寄付講座「東アジア共同体」顧問(~14年)

2012年 国際アジア共同体学会会長

2013年 国連NGO/DEVNET東京・理事

 

著書(単著)

『現代アメリカ外交序説―ウッドロー・ウィルソンと国際秩序』(創文社, 1974年)[吉田茂賞、1975]

『現代紛争の構造』(岩波書店, 1987年)

『非極の世界像』(筑摩書房, 1988年)

『現代の軍拡構造』(岩波書店, 1988年)

『地殻変動の世界像』(時事通信社, 1990年)

『ポスト・ペレストロイカの世界像―「帝国」はなぜ崩壊したのか』(筑摩書房, 1992年)

『アメリカ―黄昏の帝国』(岩波書店[岩波新書], 1994年、台湾語版,1998年)

『敗戦の逆説』(筑摩書房[ちくま新書], 1999年)

『戦後の原像』(岩波書店, 1999年、韓国語版,2003年)

『現代国際関係学―歴史・思想・理論』(有斐閣, 2001年)

『分割された領土―もうひとつの戦後史』(岩波書店[岩波現代文庫], 2002年)

『脱グローバリズムの世界像―同時代史を読み解く』(日本経済評論社, 2003

『東アジア共同体をどうつくるか』(筑摩書房[ちくま新書], 2007年)

『国際公共政策―新しい社会へ』日本経済評論社、2011年

『アジア力の世紀―どう生き抜くか』岩波新書、2013年

 

著書(編著)

『平和戦略の構図』(日本評論社, 1986年)

『ポスト冷戦とアジア太平洋の平和』(岩波書店[岩波ブックレット], 1992年)

『アジア経済危機を読み解く―雁は飛んでいるか』(日本経済評論社, 1999年)

『公共政策への招待』(日本経済評論社, 2003年)

 

著書(共編著)

(下斗米伸夫)『ユーラシア激動』(社会評論社, 1992年)

(山口定・宝田善・住沢博紀)『市民自立の政治戦略』(朝日新聞社, 1992年)

(吉田康彦)『動き出した朝鮮半島―南北統一と日本の選択』(日本評論社, 2000年)

(平川均)『東アジア共同体を設計する』(日本経済評論社, 2006年)

(豊田隆・鈴木宣弘)『農が拓く東アジア共同体』(日本経済評論社, 2007年)

(水戸考道)『戦後日本政治と平和外交―21世紀アジア共生時代の視座』(法律文化社, 2007年)

(中川十郎)『東アジア共同体と日本の戦略』(桜美林大学北東アジア総合研究所, 2011年)

 

訳書

ルイス・フィッシャー(猪木正道共訳)『レーニン(上・下)』(筑摩書房, 1967年)

メイ『歴史の教訓―戦後アメリカ外交分析』(中央公論社, 1977年/岩波書店[岩波現代文庫], 2004年)

ベイツ『国際秩序と正義』(岩波書店, 1989年)

ティックナー『国際関係論とジェンダー―安全保障のフェミニズムの見方』(岩波書店, 2005年)

フィーラー『政治的時代―革命的世界とその構造』(ブリタニカ,1968

 

編纂(共纂)/編集

(下河辺元春)『芦田均日記』全7巻(岩波書店, 1986年)『国際公共政策叢書』全20巻(日本経済評論社, 2003年~)


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